A型事業所にまた荒波。事業所報酬の引き下げで利用者5000人ほどが解雇退職へ

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Photo by Jeremy Bishop on Unsplash

利用者と雇用契約を結び最低賃金での就労訓練を提供する、就労継続支援A型事業所。自らの収益と国からの補助金で経営していくのですが、補助金頼みの事業所があまりにも多すぎたため2017年に一度“喝”を入れられました。国からの補助金を利用者への給料に充てることが厳しく禁じられたのです。このショックは大きく、岡山県倉敷市で多くの障害者が路頭に迷ったこともニュースとなりました。

ところが2024年になってもう一度、より大きな荒波がA型事業所全体を襲いました。内容は事業所報酬の引き下げで、収支の悪い事業所は国からの補助金を減らされるというものです。2017年時点では補助金の用途を厳しく見直した程度に過ぎなかったのですが、今回は補助金の額そのものに手が入っている訳ですね。利用者全員への給料を自分の収益だけで稼げない事業所は、本格的に淘汰されていきます。

4か月で既に2017年の2倍以上が路頭に迷う

事業所報酬引き下げの効果は凄まじく、3月~7月の間に各都道府県や政令指定都市など129の自治体だけでも5000人近くの障害者が解雇ないし退職となっていました。2017年と比べると2倍以上もの人数が、たった4か月間で路頭に迷っていることになります。

この大量解雇の要因は、収益の出ていない事業所への補助金が減らされるという追い討ちのようなシステムにあります。2017年ショックを経てもなお、公費に依存したA型事業所は未だに存在していたようで、国はこれをもう一度締め付けた形です。B型と変わらない単純作業の事業所にはひとたまりもないでしょう。

ですが、2017年の時点でもそうであったように、“悪しきA型”だけが駆逐された訳ではありません。真面目にやっていても結果の伴わなかった事業所もまた巻き込まれています。突然宙ぶらりんとなった障害者の行く先などたかが知れていますし、その辺りがお粗末だった印象は否めません。

事業所の中には、雇用契約を結ばず最低賃金の縛りもないB型事業所として再出発する所もありました。これで経営自体は楽になるでしょうが、利用者たちが“無職”であることに変わりないことは強く意識して貰いたいものです。そうでもないと施設長に“甘え”が生じてしまいますからね。

そもそもA型は収益が出にくい

そもそもA型事業所は普通のアルバイトと違って収益を出しづらい構造をしています。なぜなら利用者の働く時間が週20時間以上と決められており、大抵の事業所はそれに従って1日4時間の週5日で動いている場合が多いからです。

言葉は悪いですが、労働時間は半分程度のうえ調子にも波がある不安定な働き手の集まりに、敢えて仕事を発注したい個人や企業は居るでしょうか。信用構築におけるハンデは凄まじく、思うように仕事の受注が出来ない事業所が大半ではないかと思います。私が昔いたところも仕事の受注に四苦八苦しており、仕舞にはクラウドソーシングにまで頼る始末でした。

また、施設長のビジネス目線もB型より格段に厳しく問われます。利益を上げるにはビジネス畑での経験とそれに裏打ちされた目線が欠かせません。学校を出てから福祉一本でやってきた人は“世間知らず”に過ぎず、経営面で大いに苦労させられます。単に「儲かるから」という理由で参入しておいて、障害者への接し方が分からないまま潰れるような手合いは論外ですけれども。

結局のところ、ビジネス目線の有無によらず大切なのは、A型事業所を運営していくうちに障害者が「人材の鉱脈」だと気付くことではないかと思います。始めた動機が崇高であれ不純であれ、「障害者は十分働ける」と理解できたのであれば、人間としても経営者としても大きく成長しています。結果がついてくるかどうかまでは保証されませんが、成長が経営面にも反映されてほしいものです。

個人も企業も、せめて「お得意様」になれ

尤も、就労継続支援に求められるのは障害者を就労へ繋げて社会進出させることであって、社会と隔絶された施設で作業に従事させ続けることではありません。しかし、事業所がいくら頑張っても社会の側に受け入れの意思がなければ元も子もないです。一般企業が障害者を、飼い殺しではなく本当に戦力やメンバーとして雇うかどうか、最終的にはそこに全てがかかっています。

今回のような事業所への締め付けは、働ける障害者を無理矢理にでも社会へ出そうという動きであるとも言われています。しかし、社会に拾う意志がなければ障害者から繋がりを奪うだけの愚策に過ぎない訳で、制度を決めるうえで現場の状況というものが分かっていないのではないかとも思ってしまいます。

何もせずにただ障害者を事業所に留めろと喚くだけというのも虫のいい話です。そこまで事業所に繋いでおきたいのならば、事業所を存続させるために自ら率先して金や仕事を落とすのが筋と言うものでしょう。個人なら事業所の商品やサービスにお金を落とし、企業なら継続的に仕事を発注する、「お得意様」となるべきです。

A型事業所の存続自体が危ぶまれてきた今一人ひとりが出来ること。障害者をれっきとした戦力として一般企業で積極的に採用していくか、A型事業所の経営を安定させるために「お得意様」となって支えるか、この2つしかないと私は考えます。

参考サイト

障害者5000人が解雇や退職 事業所報酬下げで329カ所閉鎖
https://news.yahoo.co.jp

国の報酬改定で「生産性」求められ…障害者就労支援を行うA型事業所経営者の苦悩
https://www.ohk.co.jp


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遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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