インクルージョンとノーマライゼーション ~どちらが日本の現代社会においてより優先されるべき考え方なのか

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Photo by Ben White on Unsplash

現代社会において筆者のような障害者がよく文献等で目にする事も多くなった「ノーマライゼーション」と「インクルージョン」。今回はそれぞれの差異や類似点にも注目しながら、どちらが日本の現代社会においてより浸透させていくべき概念なのかという事を皆さんと一緒に考えていく事にしたいと思います。

それぞれの定義

〇ノーマライゼーション
「全ての国民が、障害の有無に関わらず、等しく基本的人権を享受するかけがえのない個人として尊重されるべきものである」という理念※(参考文献参照)
※(健常者と障害者を良い意味で区別し、障害者が健常者と同じ水準で生活できる事を目指す、という理念)

◎インクルージョン
「障害があっても地域で地域の資源を利用し、市民が包み込んだ共生社会を目指す」という理念※(参考文献参照)
※(障害者、健常者を区別はせず、より広義に世間一般的に「社会的弱者」と呼ばれている人々との共生を個人個人が助け合う事で目指していく理念)

それぞれの違いと目指すべき方向性

ノーマライゼーションが「障害者が健常者と同じように暮らす事ができる」という点に重きを置いているのに対し「障害者、健常者に関わらず、そういった個々の障害や特性を受け入れて共生していく事ができる社会」の構築を目指しているのが、インクルージョンの概念です。

なので、ノーマライゼーションの概念をさらに発展させたものがインクルージョンだと言い換える事もできるでしょう。それでは、まず日本においてインクルージョンの前提条件とも言えるノーマライゼーションはどの程度浸透していると言う事ができるのでしょうか。

私自身言われた事がありますが、「障害を持っていてかわいそう」といったような思想を持った健常者の方々が一定数いる現状を踏まえると、まだまだノーマライゼーションの意識付けが根付いていないように感じました。

『ノーマライゼーションからインクルージョンへ』という記事を別コラムを書く際に参考に拝読しましたが、ノーマライゼーションすら徹底されていない現状の日本社会において、インクルージョンを推進していくような現在の動向は非常に危惧されるべきものだと筆者は思うのですが、このコラムを読んでくださっている読者の皆様はどのようにお考えでしょうか。

これから講じるべき施策とは

先ほども述べたように、まずは日本社会全体の傾向としてノーマライゼーションの理念を推進、浸透させてからインクルージョンの理念の推進、浸透へと段階的に移行していくべきだと考えます。

筆者個人の見解としては根本的な問題として、物理的な意味での障壁よりも心理的な意味での障壁の方が壁が厚く、ノーマライゼーションの理念の推進、浸透への重大な懸念材料となっていると感じます。なぜなら、物理的障壁はスロープやエスカレーター、エレベーターの設置等によってある程度緩和されますが、心理的な障壁に関しては「障害を持っている人たちは無条件にかわいそう」といったある種刷り込みに近い思い込みを取り払わない限り、健常者と障害者は従来通り一定の距離感に留まり、私たちが理想とする共生社会とはほど遠くなってしまうからです。

したがって、推進メカニズムとしてはまずノーマライゼーションを物理的、主に心理的障壁を解消していく事で推進し、その後にインクルージョンの波及、推進を目指していく形が理想的な浸透プロセスと言えるのではないでしょうか。

結論

今回のコラムでは、ノーマライゼーションとインクルージョン、どちらの理念をより優先して波及させるべきなのか、について考察してきましたが、結論は明快です。

先ほどから述べている通り、まずはノーマライゼーションの波及を優先すべきだと考えます。そもそもインクルージョン自体、ノーマライゼーションが元となった理念です。

障害者に対する偏見すら是正されていないのも関わらず、その他の人々に対する理解まで求め、共生を目指していくインクルージョンの概念を推進しようとする動きは時期尚早という事ができるのではないでしょうか。例えるなら中学英語の習得が十分でないのに高校卒業程度の英語力が求められる英検二級を受験するようなものです。

理想を追い求めるだけでなく、現実を踏まえた上で判断するならノーマライゼーションの波及を優先すべきだと考えていますが、このコラムの読者の皆様はどうお考えでしょうか。


           

【参考文献】

出典:『FC2 〇共生社会〇 ノーマライゼーションとインクルージョンの違い』より
http://yamagatakenikuseikai.blog.fc2.com

出典:『ユースアドバイザー養成プログラム 第4章 さまざまな社会資源ー関係分野の制度、機関等の概要、関係機関の連携等ー第1節 関係分野の制度の概要、関係法規等(社会の仕組み)』より
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/h19-2/

出典:『【障害者基本法】障害福祉の理念法(ノーマライゼーション、ソーシャルインクルージョン、合理的配慮、社会的障壁の除去、意思決定支援)』より
https://sw.self-sufficiency.jp

出典:『HUFFPOST なぜ、アメリカでは障害者を「弱者」と呼ばないのか』より
https://www.huffingtonpost.jp/yumiko-sato/

出典:『NHK福祉情報サイト ハートネット 障害者は“不幸“?差別や偏見にどう向き合う』より
https://www.nhk.or.jp/heart-net/

出典:『日本総研 経済・政策レポート ニュージーランドのインクルーシブ教育と我が国への示唆』より
https://www.jri.co.jp/

ペルシャ猫

ペルシャ猫

一般就労を目指し、PCスキルを磨いています。

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